研究の進め方
思考の三大技術
卒業研究では、「誰も考えたことのないことを考える」ことが必要になります。これは難しいことに思えるかもしれませんが、研究を進める上で重要な3つの思考技術を紹介します。
1. 自分のいやがることを進んでせよ
研究を進めていると、「これは面倒だな」「これは難しそうだな」と感じることがあります。しかし、そうした「いやがること」の中にこそ、重要な発見や成長の機会が隠れていることが多いのです。面倒なことを避けていると、いつまでも同じ場所にとどまることになります。「いやだな」と思ったら、むしろそこに向かっていきましょう。
2. 極端から極端へのパン
思考が行き詰まったときは、極端な立場を想定してみることが有効です。例えば、ある変数の影響を考えるとき、その変数が「ゼロ」の場合と「無限大」の場合を想像してみます。現実にはありえない極端な状況を考えることで、その変数が持つ本質的な意味が見えてくることがあります。
カメラのパンニングのように、一方の極端からもう一方の極端まで視野を動かすことで、全体像を把握することができます。
3. メタファーは景気良く
抽象的な概念を理解したり説明したりするとき、比喩(メタファー)は非常に有効です。「〜のようなもの」という表現を恐れずに使いましょう。ただし、中途半端な比喩は誤解を招きます。比喩を使うなら、思い切って大胆に使うことで、かえって本質を突いた説明になることがあります。
生成AIとのつきあいかた
ChatGPT、Claude、Geminiなどの生成AIは、研究を進める上で強力なツールになりえます。しかし、適切に使うためにはいくつかの注意点があります。
ハルシネーション(幻覚)
生成AIは、もっともらしいが事実ではない情報を生成することがあります。これを「ハルシネーション」と呼びます。特に、具体的な数値、人名、論文の引用などについては、必ず元の情報源で確認する必要があります。AIの回答を鵜呑みにせず、クリティカルに評価する姿勢を持ちましょう。
著作権の問題
生成AIが出力した文章をそのまま論文に使用することには、著作権上の問題があります。また、AIに他者の著作物を入力することも問題になる可能性があります。AIの出力は参考にとどめ、最終的な文章は自分の言葉で書くようにしましょう。
思考の代替ではなく補助として
生成AIは「考える」ことの代わりにはなりません。AIに丸投げして得た回答は、あなた自身の理解にはなっていません。AIは思考を補助するツールとして使い、最終的な判断や理解は自分自身で行うことが重要です。
効果的な使い方
- ブレインストーミング:アイデアを広げるための壁打ち相手として
- 文献要約の補助:長い論文の概要を把握するための補助として
- コードのデバッグ:プログラミングエラーの原因特定の補助として
- 文章の推敲:書いた文章の改善点を指摘してもらう
議論のマナーについて
ゼミでは活発な議論が行われます。議論を実りあるものにするために、以下のマナーを心がけてください。
批判と否定は違う
「批判」は、さまざまな角度から検討し、よりよいものにするための建設的な行為です。一方、「否定」や「論破」はコミュニケーションを遮断する行為です。ゼミでは批判は歓迎されますが、否定や論破は避けてください。
発言は人格とは別
発言内容と発言者の人格を混同してはいけません。ある意見を批判することは、その人を批判することではありません。また、自分の意見が批判されても、自分自身が否定されたわけではありません。
沈黙は避ける
沈黙は、「理解した」のか「理解していない」のかを区別できません。わからないことがあれば質問し、思ったことがあれば発言しましょう。発言することで議論が活性化し、あなた自身の理解も深まります。
質問は貢献
「こんなことを聞いてもいいのだろうか」と躊躇する必要はありません。あなたの疑問は、他の人も持っている可能性があります。質問することは議論への貢献です。
研究の設計
時間の使いかた
卒業研究は、企画立案、計画、実行、分析、執筆までを自分の力で行う必要があります。基礎実験のようにレールが敷かれているわけではありません。
重要なポイント:
- 報告・連絡・相談が重要:進捗状況を教員に伝えることで、適切な指導を受けられます
- 徹夜は機能しない:一発逆転スケジュールは研究には向きません
- よく寝てよく食べる:基本的な生活リズムを崩すことは効率を悪くするだけです
- 相談の敷居を下げる:「こんなことで相談していいのだろうか」と悩まず、気軽に連絡してください
研究の組み立てかた
研究の基本は、お手本となる先行研究を見つけることから始まります。
- 自分の興味のあるテーマで論文検索
- 自分の興味関心と合致する論文を見つける
- その研究を完全に再現する(追試)
先行研究が見つからない理由:
- 問いの形式の問題:「なぜ」ではなく「どのように」で問う
- キーワードの問題:日常用語と専門用語の違い、類義語の存在
- 概念の中身の問題:自分が興味ある対象が何なのか明確でない
自分の興味関心と100%マッチする先行研究は見つかりません。60-80%マッチすれば十分です。
興味がない場合
特に研究したいテーマが見当たらない場合も、気軽に教員に相談してください。こちらからいくつか研究テーマを提示します。統計ゼミですから、分析モデルを提案する形になります。
卒論で求められていること
卒論に求められているのは、研究者の卵としての潜在的な能力です。
- 自分の研究の面白さを説明できること
- 自分の研究の長所と限界を理解していること
- 自分のやったことを十分に理解していること
卒論発表会では必ず「研究は面白かったですか」と尋ねます。面白くなかったのであれば、もっと研究を続けるチャンスを与えます。