文章の読み書き

研究活動をインプットとアウトプットに分けて考えてみましょう。論文を読んだりデータを集めたりする部分はインプット、データを分析したり文章を書いたりする部分はアウトプットです。

文献の種類

文献検索

「先行研究を探したけど見つかりませんでした」ということはあり得ません。皆さんが考えつくようなことは、ほぼ間違いなく、すでに先人が研究しています。見つからない場合は、探し方に問題があります。

文献検索には以下のツールを使います:

  • CiNii:国立情報学研究所が運営する日本語の論文・文献のWebサイト
  • J-Stage:科学技術振興機構が運営する電子ジャーナル公開システム。PDFで原文が読めるものが多い
  • Google Scholar:Googleの文献検索特化システム。国内外の文献を広く網羅し、引用書式もコピペできる
  • PubMed:医療系・生物学系の論文データベース
  • EBSCO host:海外論文の検索システム
  • Science Direct:Elsevier社の検索システム

適切なキーワードを選ぶことが重要です。自分の探したいものの専門用語、類義語、英語表現などを多角的に調べましょう。

本の索引を見る

キーワードがわからない場合は、専門書を読みましょう。専門書の索引を見ると、関係するキーワードをたくさん集めることができます。

専門書と一般書の見分け方: - 専門書:横書き、引用文献リストあり - 一般書:縦書き、引用文献なし

論文の種別

雑誌の違い(査読あり・なし):

  • 査読あり:専門家集団(平均3名ほど)が審査。数ヶ月から数年かけて洗練された論文が掲載される
  • 査読なし:大学紀要など。著者の主張がダイレクトだが、十分にチェックされていない可能性がある

掲載枠組みの違い:

  • 原著:オリジナルな発見がある論文
  • 資料:既成の成果に対する補足やまとめ(心理尺度の作成など)
  • 展望:最近の動向をまとめて今後の方向性を論ずるもの
  • ショートノート:短報。急ぎの情報を出すときの枠組み
重要ゼミで議論する資料は査読ありの原著論文に限ります

質の悪い論文や短報のように十分な情報が含まれていないものをベースに議論することは、真偽判断の価値観を学習中の初学者にとっては良いことではないからです。


パラグラフライティング

センテンスについて

文章は書き出しから句点までの一文で、センテンスを書くルールは One sentence, One meaning(1つの文章で1つの意味)です。

避けるべき表現:0ビット話法

どちらかに向かって進んでいけば,どこかに辿り着くのではないか。

言葉にはなっているが、具体的な意味を持たない文は避けましょう。

避けるべき表現:婉曲表現

独立変数が従属変数に何らかの影響などをある程度与えた可能性が示唆される。

「何らかの」「など」「ある程度」「可能性が」「示唆される」は全て表現を和らげるためのもので、科学論文には不適切です。

改善のヒント:

  • 文章を英訳してみる(主語と述語の対応が明確になる)
  • 一文は短ければ短いほど良い
  • 2つの文章を曖昧な接続詞でつなげない

読まないと書けない:インプットの量を増やしましょう。

段落構造について

文章のつながりに構造を持たせる書き方がパラグラフライティングです。

心理学論文の構造:

セクション(問題・方法・結果・考察)
  └─ サブセクション
       └─ サブサブセクション
            └─ パラグラフ
                 └─ センテンス

理想的には、各レベルで起承転結の構造を持ちます。

構造化された文章の書き方:

  1. 文章を書く前に目次(構造)を先に作る
  2. 各パラグラフで書くことを箇条書きにする
  3. そこまでイメージできれば、あとは言葉遣いに気をつけて書き下すだけ

書けないときは:

  • 書くべきことの構造を考えていないから
  • インプット(文献を読むこと)が不足しているから
  • 方法・結果から手をつける(問題セクションは最も書きにくい)
ヒント執筆の心得
  • 「始めてしまえば終わるだけ」
  • 「やる気はスイッチではなく水車であり、駆動している力の慣性で生じるもの」
  • 「完璧を目指す前にまず終わらせろ」

構造化された文書を書く書式とツール

なぜWordを使わないのか

商用ソフトウェアで論文を書くことはお勧めしません:

  1. 会社が倒産してアプリ開発が止まると論文が読めなくなる
  2. Wordのアウトライン機能を十分使いこなせている人は少ない

コンテンツとデザインの分離

  • 文章そのものはプレーンな書き方
  • デザインは別途設定ファイルで指定
  • 出力時にコンパイラや表示装置がレイアウトを整える

推奨ツール

Rmarkdown / Quarto

  • プレーンテキスト形式
  • 構造を#の数で表現(#セクション、##サブセクション…)
  • Word、HTML、ePub、PDFなど様々な形式に変換可能

LaTeX

  • 非常に美しい構成の文書を作成できる
  • 数式や参考文献の管理に優れている
  • 学術論文の執筆には欠かせない

本ゼミではLaTeXを使った論文執筆を推奨します。環境構築の方法はLaTeX環境構築を参照してください。