文章の読み書き
研究活動をインプットとアウトプットに分けて考えてみましょう。論文を読んだりデータを集めたりする部分はインプットになります。データを分析したり、文章を書いたりする部分はアウトプットになります。
前者の部分は個別のテーマがあると思いますので、それに沿ってスケジュールを立てて進めていくことになります。これに対して、後者の部分は共通の要素があります。文章の書き方、データの分析の仕方についてはある程度のフォームがありますので、これを演習の時間に習得する必要があります。
ここでは読み書きの技術について解説します。
文献の種類
まずはインプットの方から考えていきましょう。先行研究を探すのは研究の第一歩です。ここで肝に銘じてほしいのは、「先行研究を探したけど見つかりませんでした」というようなことは言わないでほしい、ということです。言うなというより、実際はそのようなことはあり得ないので、そうした主張はほぼ誤りですから、その主張を通すのは難しいのです。
皆さんが考えつくようなことは、ほぼ間違いなく、すでに先人が研究しています。万が一、新しい概念や現象を思いついたり発見したりしたとしても、その概念や現象に関わる類似のものは必ずあって、それを研究している人はいます。その場合はそうした先行研究と比べて、あなたが見つけた「新しい概念や現象」を正しく位置付ける(先行研究とどこが同じで、どこが違うかを披瀝する)必要があります。実はその方がとんでもなく調べる量が多くなるので大変なことなのです。「先行研究が見つからない」場合は、ほぼ100%、探し方に欠陥があるのです。以下では検索の方法について改めて説明します。
文献検索
文献検索はパソコンを用いて行います1。ツールとして、以下のものがあります。
| ツール | 説明 |
|---|---|
| CiNii | 国立情報学研究所が運営する日本語の論文・文献のWebサイト |
| J-Stage | 科学技術振興機構が運営する、電子ジャーナルの公開システム。PDFで原文が読めるものが多い |
| Google Scholar | Googleの検索システムで文献検索に特化したもの。国内外の文献を広く網羅しているし、引用書式をコピペできる利点もある |
| PubMed | 医療系・生物学系の論文データベースで、専修大学図書館の外部データベースリンクから利用できる |
| EBSCO host | 海外の論文を対象とした論文検索システム。専修大学の外部データベースリンクから利用できる |
| Science Direct | 世界最大の学術系出版社であるElsevier社の検索システム。専修大学の学生は図書館で登録すれば利用できる |
文献検索を利用するときは、適切なキーワードを選ぶことが肝要です。自分の探したいものが、専門的にはなんというか、類義語はないか、英語ではなんというか、英語の他の表現はないか、など多角的に調べる必要があります。例えば、Bi-Clusteringという手法は、別名Two-mode clusteringという名前があったりします。もしうまく見つかれば、その文献を隅々まで読んで、その文献が引用している他の文献を辿るとか、その文献の中の他の表現をキーに調べるといった工夫を重ねる必要があります。
本の索引を見る
文献検索はキーワードがわかっている時に有用ですが、キーワードすらわからない、というときは専門書を読みましょう。漠とした理解しかしていない、イメージでしか考えていない場合でも、専門書を読めば専門用語とともに論じてくれています。自分が好きそうなテーマについて書いてありそうな専門書を読んで、その本の索引をみると、関係するキーワードをたくさん集めることができます。
- 専門書:横書きで、引用文献リストがあるもの
- 一般書:縦書きで、引用文献がないもの
論文の種別
あまり意識されないことですが、論文には種類があります。厳格な区分というわけではなく、中間的なものもあります。
雑誌の違い:査読あり・査読なし
査読(レフェリー)とは、事前に専門家集団(平均3名ほど)が審査することです。研究者は専門家集団に論文を読んでもらって、考え間違いや計算ミスなどがないか、審査を受けます。査読者は基本的に、「こうすればこの論文はよくなる」というつもりでコメントを返します。査読者と筆者とが複数回のやり取りを経て、数ヶ月から数年かけて洗練された論文は掲載(公開)されることになります。専門家によるチェックのプロセスを経ているので、論文の品質には一定の評価が期待できますが、査読者といっても必ずしもそのテーマの専門家であるとは限りませんし、掲載する方向で審査しますから、その真価は読者が決めなければなりません。
査読なし論文は、上記の審査プロセスを経ていない論文です。大学が出している紀要論文などは、査読のないものや、あっても形式的なものであることが少なくありません。第三者のチェックを受けていないので、よく言えば著者の主張がダイレクトに届けられます。悪く言えば、十分にチェックされていない研究やパイロットスタディ、萌芽的なものや思いつきの域を超えていないもの、研究としての新規性や学界に対する貢献が低いもの、が含まれる可能性があります。
学会が出版しているのは基本的に査読あり、大学が出版しているのは基本的に査読なし、と考えるといいでしょう。また、最近は査読の不正が問題になったりもしていますので、あくまでもその価値は読者が判断する、ということを忘れてはいけません。
掲載枠組みの違い
| 種類 | 説明 |
|---|---|
| 原著 | オリジナルな発見がある論文。科学的な価値があり、学問の歩みを一歩進めるもの |
| 資料 | 既成の成果に対する補足やまとめ。心理尺度を新しく作った、というのもここに含まれる。資料をもとに、次の研究が続くもの |
| 展望 | 最近の動向をまとめて今後の研究の方向性を論ずるもの |
| ショートノート・ブリーフレポート | 短報とも言われ、短く急ぎの情報を出したりするときの枠組み。たとえばCOVID-19の流行時のように、新しい知見をタイムリーに広めていく必要があるときに有用 |
質の悪い論文や短報のように十分な情報が含まれていないものをベースに議論することは、真偽判断の価値観を学習中の初学者にとっては良いこととは言えないからです。
同様に、先行研究として参考にするのも、査読あり原著論文にすることを強く勧めます。スタートになる基盤がぐらぐらしていると、その上に構築されるものが全てダメになる可能性があるからです。
論文の読み方(読まれ方)
論文を読むときは,能動的かつ批判的に読みます。悪い言い方をすれば,言いがかりをつけるような気持ちで読むようにします。審査をするつもりで読む(査読)というのは,そういうことです。勘違いしないでほしいのですが,悪意があって読むのではありません。書かれたものについて,論理的に間違っていないか,可能性を十分に検討しているか(他の可能性はないか),といったことを吟味しながら読むということです。この読み方を身につけるために,ゼミでのプレゼンや討論を行います。
当然のことながら,皆さんが書く文章(プレゼン資料,卒論,修論)に対しても,能動的かつ批判的に読まれます。この読み方を身につけていると,自分の文章がどのように読まれるかについても当然想像できるようになるでしょう。そうすることで,書き方も洗練されてくるはずです。生成AIに読ませて要約させていると,この力は身につきません。生成AIに書かせていると,批判的な指摘があった時に回答できなくなり,書いていないことが明るみに出ます。卒論や修論は口述試験がありますから,そのような手抜きは許されません。生成AIの尻拭いで責任を人間に負わされるのは,たまったものではないですよね。
さて,能動的かつ批判的な読み方というのは,例えば「Aである」という記述があった時に,「本当にAか」「Aとはなにか」「Aでないとは何か」「BやCの可能性はないか」といったことを考えることでもあります。Aに該当するのが文章のこともあれば,単語のこともあります。一言一句,言葉の隅々までこのようなチェックをします。普段何気なく使っている言葉,たとえば「行動」とか「能力」といった言葉にも,それぞれ意味があり,含意されているものがあります(行動は行為とは違い,外部から観察できる振る舞いのこと。行為は意図を持って行動を引き起こすことです。能力は先天的なものも含みますが,基本的にトレーニングすることで伸ばすことができるもの,という含意があります。先天的でトレーニングできないものは「才能」です。)。当然のことながら,このように読んでいると時間がかかります。1ページを読むのに2時間かかる,ということもザラです。時には,タイトルの意味を考えるだけで90分たつこともあります。それぐらいしっかり,一言一句に意味を込めて書かなければなりません。単語と単語,文章と文章のつながりについてもそうです。接続詞の「そして」「つまり」「あるいは」といった言葉の選び方も重要です。「つまり」という以上はその前の文章が詰まったものが続く文章にいくはずですが,そうなっていなければ論理として破綻してしまっているわけです。こうしたことがあると,読者は内容が理解できません。理解しようと能動的に読むからこそ,批判的に読む必要があるのです。
読んでいるうちに,知らない言葉が出てくることがあると思います。そのときは,調べて理解しようとしてください。調べ方については,これまでの教育・学習の成果で身についていると思います。注意しておきたいのは,ネットや生成AIなどで調べることが一般的だと思いますが,これらは「間違った通説」を述べていることが少なくないということです。大学で学ぶことは通説に通じることではなく,真実を見極めることですから,書籍や論文に当たるのがいいでしょう。あるいはそうした書かれたものに含まれない情報を,専門家が有していることがありますから,ぜひ教員に聞いてください。大学の教員は研究者であり,いわばその領域のオタクですから,問われると喜んで情報を提供してくれます!
さて,読み手が書き手の意図と違う読み方をする(誤読する)場合,その責任は書き手が負うものと考えることが一般的です。読み手はいかなる読み方をしても構いません。究極的に言えば,読み手は書き手の気持ちなぞ知らず,全て誤読しているといってもいいでしょう。であれば,書き手はなるべく誤読されないように(他の意味解釈がされる可能性がないように),言葉を選んで選んで選び抜いて,書かなければなりません。読み手は他の解釈可能性を探りながら読むわけですから,書き手は事前にその可能性を狭められるよう,厳密な言葉遣いが求められます。このように,読む技術を上げることは書く技術を上げることにも繋がるのです。
パラグラフライティングについて
つづいて、アウトプットについて考えていきましょう。
センテンスについて
とはいえみなさんは、基礎実験1/2を通じて基本的なレポートの書き方は学んでいるはずです。読書感想文や自由研究のように何をどう書いても良いというものではなく、心理学のレポートはAPAスタイルに準拠し、段落構成や引用文献の書き方が、隅々に至るまで決められていることはご存じのことと思います。
心理学論文の段落構成は、「問題」「方法」「結果」「考察」の4つからなるのが基本です(タイトルや要約、引用文献などは本文ではないのでここでは除外して考えます)。それぞれのセクションで何を書くべきかについては、既に学んでいるはずです。問題を提起し、方法では読者が再現できるように全ての情報を記述し、結果では適切な分析を行い判断に必要な情報を全て記述し、考察は結果を受けてその意味を記述するのでした。
さてでは、この段落・見出しさえつけていれば良いのかというと、実はそうではありません。科学論文は基本的に、文章が構造化されている必要があります。構造化されているというのは、論じられているコンテンツが適切に配置されていることを意味し、特に階層的な構造をしている必要があります。
「問題」「方法」「結果」「考察」は、一番基本的な外枠のところであり、大見出し、あるいはセクションと呼ばれる区切りになります。このセクションレベルの下にはサブセクションがあり、サブセクションの下にはサブサブセクション、サブサブセクションの下にはパラグラフがあり、パラグラフはセンテンスからなる、という構造になっています。
文章は書き出しから句点までの一文で、センテンスを書くルールはOne sentence, One meaning、すなわち1つの文章で1つの意味を成す、ということです。日常会話や小説などの文章では特に気にすることはないと思いますが、卒論・修論は科学技術文書ですので、この「意味のある一文」であることが重要です。私たちは母語で考え、意思疎通ができる程度に言葉を使いこなしますが、意外とこうしたルールに定められた言語化は難しいものです。
0ビット話法
たとえば政治家は高度なレトリックで(あるいは天然なのかもしれませんが)、いろいろ言葉を尽くしているようで、何の意味ももたらさない表現をすることがあります。これを私は0ビット話法と呼んでいます2。例えば次のようなものが0ビット話法です。
どちらかに向かって進んでいけば、どこかに辿り着くのではないか。
これは実際に私が道に迷っているときにもらったアドバイスですが、何か伝えているようで何の情報ももたらさないですね。このように、言葉にはなっているが具体的な意味を持たない文というのが、世の中には存在するのです。
婉曲表現を避ける
流石にここまで酷くないとしても、私たちはつい婉曲的な表現をします。それは丁寧に伝えるためであったり、断言することで反論が生じたり、配慮すべき可能性を排除しないことをアピールするためだったりします。しかしこれらは仲良くするための言葉の技術であって、情報や意味を伝えるという科学技術論文の目的には不適切です。例えば次のような表現は、論文の中で用いるべきではありません。
独立変数が従属変数に何らかの影響などをある程度与えた可能性が示唆される。
ここでいう「何らかの」「など」「ある程度」「可能性が」「示唆される」は、全て表現を和らげるためのものですね。論文であれば次のように改善すべきです:
- 「何らかの」:何であるかを明確にすべき
- 「影響など」:「など」に何が含まれるかを明確にすべき
- 「ある程度」:量的なものであれば数値を報告すべき。数値でないのであれば、他の表現でその程度の多寡を明確化すべき
- 「可能性」:なんらかの例外的存在の可能性は必ずあるので、この婉曲表現は保身的であり無意味。言及するのであれば、ありうる可能性を全て列挙する必要がある
- 「示唆される」:これは「ぼんやり示す」という意味であり、仄めかすのではなくて事実を明確に示すべき
実際の論文には、ここまで極端でなくともこうした言葉遣いが含まれていることがあります。文章を書くときには個人の文体や語感、語用の癖などがあり、それらを全て排除すべきとは思いませんが、不明瞭になって意味が通じないのでは困ります。婉曲表現を避け、断定的な意見を出すことは反論されて「怖い」「嫌だ」と思うことがあるかもしれませんが、既に述べたように科学コミュニケーションの目的は仲良くなったり虐めたりすることが目的ではありませんので、気にせずしっかりと主張してください。
文章力を高めるために
そもそも文章を書くのが苦手だ、という人には読書をおすすめします。どんな文書でも構いませんので、とにかく多くのテキストを読むことです。電子端末でラノベ小説を読むということを読書にカウントすることを否定しませんが、構造化された文章やよく推敲された文章により多く触れるほうが効率的です。私たちは母語を自分で開発したわけではないのですから、自分で書く文章もこれまでの誰かの言葉の受け売りであり、インプット量が少なければアウトプット量にも当然限界がきてしまいます。インプットの量が多ければ、良文・悪文ともに参照すべき情報源が多くなるので、とにかく読まないと書けない、と思ってください。
また文章は書けるけど伝わりにくいかもしれない、あるいはついつい婉曲表現になってしまう、という人は、自分で書いた文章を英訳してみてください。英語は主語と述語の対応が日本語よりも明確で、また動詞も日本語とは異なる語源を持っている言葉に変えなければいけないため、「何をどうする」という表現をより強く意識しなければなりません。加えて、外国語は母語ほど修飾句や慣用句に慣れていませんから、ついついぶっきらぼうな物言いになりがちで、これが科学論文を書くときには逆に良い働きをしてくれます。一文で明確に事実を伝えるために、これを英語でいうにはどうしたらいいのかな、と考えながら書く癖をつけると良いでしょう。最近は生成AIや機械翻訳ツールなどもありますから、思いつくまま書いた日本語を機械に翻訳させてみるのもいいでしょう。おかしな英語がでてきたり、再翻訳で意味が通じなくなったりすると、もとの文章が悪いと考えることもできます。
また、一文は短ければ短いほど良いと考えましょう。文章を英訳してうまくいかないときは、ついつい得意な母語の癖で1つの文章に複数の主語や意味をもたせ、それを曖昧な接続詞で繋いでいることが原因だったりします。2つの文章を接続詞でつなげることは、One sentence, One meaningのルールからも外れていますし、何より文の構造が分かりにくくなるので良くありません。できるだけ短い文章にしようとこだわることで、不要な表現が抜け、また一言一句に多くの情報を詰め込むために熟考することになります。
良い論文とは、意味の塊のような重厚な主張の連なりです。私は小学生の頃の作文の授業で、遠足に出かけた1日のことを、起床から玄関を出るまで原稿用紙12枚を使って書いたことがあります。同級生はみんな書くことがない、と騒いでいましたが、私はとにかく書くことだけに集中してたのです。しかしもちろんこれは良い文章ではありませんでした。内容を薄くするのは、いくらでもできることなのです。分量が多いだけで褒められるのは小学生までです。意味や情報を詰め込んだ短い文章というのは、書くのにトレーニングが必要です。もちろんそうした文書を正確に読む、つまり埋め込まれた意味や情報をできるだけ取り出すこともトレーニングが必要です。研究活動というのは執筆活動でもあります。みなさんも一言一句にこだわった良い文章を書いてください。
段落構造について
文章のつながりが論文になりますが、繋げ方に構造を持たせる書き方がパラグラフライティングです。
心理学論文の本体(ボディ)は4つのセクションからなりますが、良い構造とはあるセクションの中に4つのサブセクションがあり、あるサブセクションの中に4つのサブサブセクションがあり、あるサブサブセクションのなかに4つのパラグラフがあり、あるパラグラフの中に4つのセンテンスがあり、という階層構造をしているものを指します。また、最後のレベルにある4つのセンテンスは起承転結の連なりを持っており、それから構成される4つのパラグラフも、パラグラフのレベルで起承転結、サブサブセクションもそのレベルで見ると起承転結、サブセクションも起承転結、となっているべきです。問題–方法–結果–考察、というのも起承転結のパラグラフです。
完全にこの構造でなければ許されない、ということではありません。文章を書いているうちに、どうしてもサブサブセクションに4つも内容がない、ということもあるでしょう。なんなら、サブサブセクションのレベルがなく、サブセクションの次にすぐパラグラフが来るということもあります。4-4-4-4の入れ子構造ではなく、3-3-3-3でまとめるということもあるかもしれません。しかし、必ずしも守らなくても良いからと言って、1-3-5-2のようなガタガタしたレベルの持ち方は美しくないし、避けるべきです。
美しくない構造は、読みにくい論文であることを意味します。どこに何が書いてあるのかがわからないからです。美しい構造は読みやすい論文であり、それぞれのパラグラフの最初の文が、何について書かれているかがわかる「起」の文になっているわけです。海外の論文などはとくにこのパラグラフライティングのトレーニングが行き届いているものが多いですから、論文の斜め読みをすることができます。問題と結果の各パラグラフの最初の文だけ拾って読んでいっても、大体のあらすじがわかるからです。みなさんも学術論文をかくときは、こうした構造が整った文章を書かねばなりません。
構造化された文章の書き方
ではどうやったら構造が整った文章が書けるのでしょうか。これは簡単で、文章を書く前にその構造を整えてしまう、というのに尽きます。いいかえれば、先に目次から書くことです。白紙に向かって最初の出だしを書くのは、非常に悩ましいことです。そこで内容から書き始めるのではなく、何を書こうか、内容をどこにどう配置しようかという文章のデザイン、デッサンから始めるのです。もちろん実際に書いていくと、思ったほど書けないとか、思ったより長くなったということがあるでしょうが、その場合は改めて目次を構成し直します。構造をどのように書き換えれば、起承転結の筋が通った目次になるのか、を考えるのです。
構造化された文章の例を示します。それぞれのレベルで起承転結になっているように書いたつもりですが、いかがでしょうか。
1. 問題
1.1 問題の所在
1.1.1 何を問題にするのか
(1) 現代社会の特徴
- 現代は情報化が進んでいるよね
- 情報化は利点が多いね
- 情報化が問題になることもあるね
- 人間は何とか適応していくしかない
(2) 現代社会における諸問題
(3) 現代社会特有の問題
(4) 未解決の問題
1.1.2 なぜ問題になるのか
1.1.3 この問題の受け止められ方
1.1.4 学術的な問題の位置付け
1.2 先行研究
1.3 先行研究の問題点
1.4 本研究の目的
2. 方法
3. 結果
4. 考察
さて、このように目次を書いて、最後に「このパラグラフで書くこと」を箇条書きにすれば、そこはもうセンテンスのレベルですから、そこまでイメージできていればあとは言葉遣いに気をつけて書き下すだけです。それは単純なタスクであり、時間をかければ必ずできることなのです。
卒論やプレ卒執筆の時期が近づいてくると、何を書いていいんだろう、書き方がわからない、書けない、という気持ちになって焦るかもしれません。しかしその理由の1つは、書くべきことの構造を考えていないからです。構造がしっかり出来上がると、実際に書くことについては悩む必要がありません。なぜなら、そこにどういう位置付けになるものをどう書いたらいいか、設計図は出来上がっているのですから。
この設計図を書くのも難しい、という人もいるかもしれません。その場合は、書こうと思っていることを箇条書きにしてみましょう。箇条書きでいろいろ書いた中で、まとまりを見つけてパラグラフやセクション立てをしていけば良いのです。箇条書きにするほどのことをおもいつかない、という場合もあるかもしれません。その場合は自分の知識が足りない、インプットの不足が原因ですので、文献を読みましょう。また、幸い心理学の場合はデータを取って分析するので、方法や結果については創作することなく、書かねばならない材料が出揃っているはずです。そうであれば必然的に、方法と結果の書くべきことリストができ、構造ができるはずです。考察は結果の構造に対応したものを書くことになるので、枠組みはそこまで複雑なものになりません。「問題」セクションが一番書きにくいので、書き出そうとするときにまず「問題」からはじめると、ピクリとも手が動かないということがあり得ます。そうではなくて、明確なところから手をつけていけば良いのです。
書くのが嫌だ、ということもあるかもしれませんが、真っ白い原稿用紙、あるいは何も書いてない空白のファイルを画面に映していると、先が思いやられて絶望的な気分になります。そうではなくて、まず書くべきことを並べていき、考えなくてもできる作業を進めていくことが重要です。
- 「始めてしまえば終わるだけ」
- 「やる気はスイッチではなく水車であり、駆動している力の慣性で生じるもの」
- 「完璧を目指す前にまず終わらせろ」
と唱えながら白い原稿に立ち向かいましょう。
また、いきなり完成品ができるわけでもありませんし、そうすべきではありません。まずは改善点・改良点の多い文章を作っておき、推敲の時間をたくさん取るようにしましょう。卒論の事務的な提出締め切りは12月中旬ですが、小杉ゼミでは12月1日にゼミ内締め切りを設定します。この段階で叩き台が書けていないようであれば、推敲の時間が取れないため質の良い論文にならないことは間違いないからです。
構造化された文書を書く書式とツール
パラグラフライティングや推敲のためのファイルのバージョン管理には、専門のツールを使うことをお勧めします。
なぜWordを使わないのか
みなさんはレポートを書くときにMicrosoft社のWordを使うことが多いと思います。もちろんAppleのPagesを使ったり、Justsystemの一太郎を使って書く、という人もいるかもしれませんが、ともかく商用ソフトウェアを使うことは、科学論文を書くときにお勧めできません。想像しにくいですが、Microsoft社やApple社が倒産して、アプリケーションの開発が止まり、論文が読めなくなったら困るからです。
また、文書作成ソフトとしてはWordユーザが広くいますから、これを使って書くということを止めはしませんが、Wordの機能を十分使いこなせていますでしょうか。Wordにはアウトライン表示という機能があり、これで文書の構造的レベルを設定することができます。Wordを使って構造化された文章を書くためには、アウトライン機能の活用法に十分習熟している必要があります。
以上の理由から、商用ソフトウェアで論文を書くのはお勧めしません。
コンテンツとデザインの分離
構造化された文章を書くためには、そうした書き方が分かりやすくなっている表記方法を知るべきです。昨今の作文業界では(特にWebコンテンツ)、コンテンツとデザインの分離が進められていて、文章そのものはプレーンな書き方をし、デザインは別途デザイン設定ファイルを使うというスタイルをとることが推奨されます。コンテンツと構造を明確にして、出力時にデザインやレイアウトを整え、その表現方法については専門のコンパイラや表示装置(例:ブラウザ)を使いましょう。
推奨ツール:Rmarkdown / Quarto
ゼミでは、マークダウンという書式をRも使えるように拡張したRmarkdown書式、あるいはその後継であるQuartoで書くことを推奨します。Rmarkdown/Quartoは統計の授業で使ったことがあるかもしれません。ファイルそのものはメモ帳などでも閲覧できる、プレーンテキストの形式をしており、構造だけでなく文字の装飾や強調は文章に埋め込まれる記号で表現する方法です。一般的にこうした表現方法をマークアップ言語と呼びます。
そこでは文章のレベル・構造を#の数で表現し、構造だった文章を表現します。
#がセクション##がサブセクション###がサブサブセクション####がパラグラフ、あるいはサブサブサブセクション
Rmarkdown/QuartoはRのパッケージを経由して、Wordファイルに変換したり、ブラウザで見るHTMLファイル、電子書籍のePubファイルにも変換できます。卒論ファイルの作り方、特に引用文献の作り方や使い方については、それらが必要になりそうな時期にあらためてガイダンスを行います。
推奨ツール:LaTeX
Rmarkdownで書かれたコンテンツをさまざまな書式に変換するのはpandocというアプリケーションが背後で機能しているからであり、特にPDFに出力する場合はpandocがTeXという版組ソフトの形式に変えて、この版組ソフトがPDFを組み上げる、という手順になっています。こうした組み込みソフトの準備のため、最初のコンパイル(変換のこと)には少し環境準備の時間がかかることになります。
LaTeXを単独で利用することもできます。非常に美しい構成をした文書を作ることができ、この文書や小杉の統計授業のテキストもLaTeXを使って構成されています。本ゼミではLaTeXを使った論文執筆を推奨しますので、環境構築の方法はLaTeX環境構築を参照してください。